2019/11/17

千住博、野地秩嘉(2005)「ニューヨーク美術案内」光文社新書

ニューヨークに住んでアーティスト活動を続ける千住博と、アートに造形の深い編集者・野地秩嘉が、ニューヨークの美術館をめぐりながら、アートに少し距離を感じている人々に対して、あらためてアート作品の楽しみ方を提案するという企画もの。冒頭で野地が描く、千住博との茶番トークを読めばわかるが、美術の世界を理解しているはずの2人が、弥次喜多珍道中のようなおちゃらけたテイストで最後までエッセイ調の軽いノリを突き通す。本当に美術やアートが苦手、あるいは敷居の高さを感じている人に向けて書かれた本でありながら、アートビジネスの裏側やアメリカならではのヨーロッパ美術界に対する姿勢などが随所に散りばめられており、美術やアートが好きな人でも最後まで読み切れば楽しめるかもしれない。タイトルからイメージをどうもつか、次第だがいわゆる批評のような文章を期待すると少しガッカリするかもしれない。一方で、15年近く前に書かれた書籍でありながら、ニューヨークのアートシーンの特性というものは本著で描き出されたものが今にも通用するのではないかと思う。といいつつ、実際にニューヨークのアートギャラリーで活躍する2019年のアーティストにはどう思われるかわからない。ニューヨークの地理的教材として読んだので、そういう点では楽しむことができた。

TRANSIT編集部(2018)「TRANSIT No.41」講談社

2018年に発刊された、ニューヨークをマンハッタンからアップステートまで幅広く特集した珠玉の一冊。トランプ政権に対する市民の声、女性活躍、アートシーン、ニューヨークで生きるということの過酷さと、マンハッタンを飛び出した挑戦者が開拓する新しいニューヨークまで、とにかくニューヨークの光と影をありとあらゆる角度から(ただしリベラルなスタンスで)わかりやすく解説している。ニューヨークには観光で一度しか行ったことがないけれど、本誌の中では数字で東京と比較するデータ一覧が掲載されていたり、アメリカ史の中でのニューヨークが果たしてきた役割が何ページにもわたってイラストつきで解説されていたりと、十分にイメージをふくらませることができた。90%の住民はどこかから移り住んでいるというニューヨークで、幾度となくフランク・シナトラの「New York, New York」を合唱する姿を見てきたという野村訓市の言葉からは、東京の雑踏に憧れ、東京にしがみつき、東京にいることそのものがアイデンティティになる地方出身の日本人を連想することが難しくない。歴史がある、文化がある、誇りがあって、競争があるニューヨークについて熱く語る人々の記事を読めば読むほど、どこか一昔前に流行った音楽の解説を聞いているような気持ちになる。もっといえば、ニューヨークや東京のような大都会の未来には、デトロイトや夕張のような未来が待っていそうな雰囲気さえ感じられ、夢があると言われても醒めていくような読後感。それほどこの一冊がニューヨークの現実を突きつける強烈で最高の特集なのかもしれないし、それこそがTRANSITという雑誌の凄みなのかもしれない。